【鈴蘭台の地に隠された日本エレキギター創世記の足跡】

どうしてもそのギターを忘れられなかった私は、祈ってこの先の事を神に委ね、若い頃に弾いていたギターを下取りに出してそのギターを手に入れることにした。それは私にとって、若い頃の自分自身を手放してしまうような大きな決断だった。それでも、新しい未来に向かおうと心を決めた。

様々な不安を抱えて引っ越してきた先は、神戸の鈴蘭台という見知らぬ土地だった。初めて訪れたとき、神鉄線沿線の山深さに驚いて目を丸くしていたのを覚えている。

新しいギターは『将軍』と名付けた。

出掛けていったブルースセッションの会場などで、色々な方が将軍に興味を持って声をかけてくれた。珍しいギターだったからだ。そうして知り合いも増え、出会いに恵まれ、関西での音楽活動も継続出来るようになってきた。

そんなある日、将軍の電気回路の調子が悪くなり修理が必要になった。詳しい方に診て頂いたが直らず、ジャパンヴィンテージは諦めが大切、全てをメンテナンスしていると費用がかかりすぎてしまうと聞いた。親切な方が使わなくなったギターを私にくださり、将軍は飾っておきなさいこれを弾いたら良いと言って下さった。本当にありがたい事だった。

ところが家に帰って頂いたギターを弾いていると、たまらない気持ちになった。壁際に立て掛けた将軍の姿があまりに寂しげで、涙まで溢れてきた。

壊れていても、将軍は鳴りたがっていた。私の将軍への想いも、とても強いものだった。

石川ヨナ
ブルースロック・シンガーソングライター。横浜生まれ横浜育ち。2017年より神戸に移住し、関西各地でライブ活動を展開中。
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