Pochitto(ぽちっト)神戸 | 「 なにもない雪」
更新:2020.1.23
第18回---なにもない雪
ある夜のこと。
まどのそとを見ながら、男の子は言いました。
「ああ。雪がつもったら、おもしろいのに」
すると、お父さんが言いました。
「じゃあ、目をとじてごらん」男の子は、言われたとおり、目をつむります。
お父さんは、ゆっくりと話します。
「たくさんつもっている雪を、イメージしてごらん」
「うん」
目をつむった世界に、まっしろな雪があらわれます。
「雪だるまをつくってみよう」
「うん」男の子は、雪だるまをつくりはじめました。
ごろごろ雪をころがして、
大きな、大きな、雪だるまをつくっていきます。
「できた!」
「じゃあ、つぎは雪がっせんをしよう」
「うん」
お父さんといっしょに、雪のたまをぶつけあいます。
わらいながら、雪のたまをにぎってはなげて、
にぎってはなげて、汗だくになって、お父さんと雪がっせんをしました。
もちろん、目をひらくと、家のなか。
まどのそとにも、雪なんて、
ちっともつもっていません。
でも、お父さんは言いました。
「目をつむって、
はじめてあらわれる世界があるんだよ」
だから、ときどき、目をつむってごらん。
さく:こうだ ともゆき
【こうだ ともゆき】プロフィール
1984年大阪生まれ。京都精華大学卒。
個人の編集業などを経て、2016年岡山県真庭市に移住。
著書に『幸せな人持ち人生』(ごま書房新社)がある。