Pochitto(ぽちっト)神戸 | 神戸大学コラム
更新:2020.9.23
第16回---神戸大学コラム
【有馬温泉そのルーツは深さ60㎞のフィリピン海プレート編】
日本列島には全世界の7%、101座もの活火山がある。そしてこの火山の熱のおかげで、国内には2万カ所以上の温泉が湧く。一方で兵庫県は、活火山とは全く無縁にもかかわらず、400近い温泉を有する「温泉県」でもある。中でも神戸市北区の「有馬温泉」は日本三大古泉に名を連ねる名泉だ。最高温度98度という高温泉で、しかも塩分と鉄分の豊富な「金泉」と炭酸分を多く含む「銀泉」という違った泉質を楽しむことができる。実は、このように塩分と炭酸分に富む「有馬型温泉」は六甲山麓に点々と湧き出している。いずれも泉温こそ50度に満たないが成分的には立派な温泉と呼ぶことができる。武庫川沿い、歌劇場の対岸にある宝塚温泉は有名だが、その他にも、西宮、芦屋、そして灘あたりにも10箇所以上の源泉掛け流し温泉がある。
しかしもちろんこの辺りには活動的な火山は見当たらない。甲山は約1300万年前、六甲山系は恐竜が闊歩した1億年ほど前の火山活動の名残ではあるのだが、いくらなんでもこれらはもう完全に冷え切っている。それなのになぜ高温の有馬温泉が湧出するのか?これは長い間科学者を悩ませてきた謎であった。
ところが、ようやく最近になってその答えが見つかった。私たちの計算結果によると、この温泉水はなんと地下60キロメートルもの深さから上がってくるのだ。そのルーツは、南海トラフから潜り込み巨大地震を引き起こす「フィリピン海プレート」にある。実はこのプレートは、おおよそ2000万年前に海の中で造られた、地球上で最も「若くて熱い」プレートなのである。そんなプレートが深さ60キロメートルまで沈み込むと、周囲からぎゅっと押されて塩分や炭酸を含んだ水が搾り出されてしまうのだ。ただし水とは言っても、搾り出されたときの温度は数百度にも達する。
世界的にみても珍しい「プレート直結」の有馬型温泉。神戸市民にとっては、「プレート」からの素敵な贈り物でもある。どうぞ、お楽しみあれ!
(巽好幸・神戸大学高等研究院)
神戸大学総務部広報課