Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2019.9.23
第10回---日本人と英語
歩道のそこかしこにタバコの吸い殻が落ちているヨーロッパの喫煙習慣は厄介だった。イギリスでは以前は16歳から喫煙できたので、学校では禁止だから我慢するが休暇中にタバコを吸う学生が多かった。一方でタバコを最も下品で忌々しい習慣だと憎む人も多い。
イースターホリデイに帰省する同級生たちと電車に乗ると、みなそそくさと真新しいタバコのパッケージを開け、くわえタバコで賭けポーカーを始めた。客室は6人用の個室になっているので、もくもく煙が充満して白くなる。やっと駅に着いてガーディアンの家族の車に乗せてもらったが、服がタバコ臭いので「君は胸が悪くなるほど臭う、僕はスモーカーは嫌いだ。二度と僕の車には乗せない」ときっぱり言われ、居たたまれなかった。
帰国しない寮生は、イギリスでの保護者であるガーディアン宅にホームステイさせてもらうのだが、私はいつも「親切すぎるサザーランド夫人」宅に割り当てられた。三畳の窓なしベッドルームに友達を招くわけにもいかず、夫人に「友達はスモーカーなのでご家族にご迷惑だから、ここには招待できない」というと、ブライトンの友人宅を紹介してあげるから2週間ステイしておいでと言われた。繁華街で2週間も自由にできるのかと心が明るくなった。サザーランド夫人の友人は小柄で痩せ型の50代の女性だった。
早速、喫煙はどこですればよろしいでしょうかと尋ねると、彼女は真っ赤になって激昂し、私を揺さぶりながら「タバコが夫を殺したのよ!」と何度も叫んで泣き出してしまった。「私が吸うのではありません」となんとか落ち着いてもらったが、16歳の私には取り乱す大人を受容できる精神力はなく、憂鬱で部屋に閉じこもった。ある晩、また彼女はわあっと泣き出し、「ああ今日の仕事は疲れた、泣けてスッキリした」と言った。食器洗剤を水で流すと「なんてことを!泡が消えて洗えなくなったじゃないの」とすごい形相で叱り、泡だらけの食器を自分で棚に戻した。彼女が仕事に出かけると、懐いていたはずのチワワは豹変、私に吠えて噛みついた。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生