Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2019.5.23
第8回---日本人と英語
16歳からお酒が飲めるイギリスでは、学校で月末の金曜日にバーナイトが催され、6年生は校内での飲酒が許されていた。コモンルーム(学生が集う休憩室)にミラーボールやアンプを設置してディスコが開かれ、仮設のショットバーでは当番のバーテンダー係が蝶ネクタイにベスト姿でシェイカーを振ってドリンクを出していた。生徒も先生もスーツやイブニングドレスで着飾って、ワインやカクテルを飲みながらダンスやおしゃべりをする大人の社交場だった。初めてのバーナイトには黒のタイトドレスとハイヒールを借りて行ったが、お酒を飲んだことがない私は、フルーツパンチ2杯で酔いつぶれた。話し相手がいなかったのでひたすら飲んでいるうちに泣きだし、くだを巻いていたところを、上級生に介抱されて寮まで連れかえってもらった。3度目にはカクテルを吐くまで飲んだので、寮長先生に呼び出されて秋冬の二学期間、バーには出入り禁止になった。
バーナイトに行かない6年生は、下級生とスタディで裏バーナイトを開いていた。学校も寮も酒臭いのでこの日ばかりは校則違反の飲酒が横行した。ニューヨーク出身のアリエンヌは私をトモと呼んで仲良くしたいと言ってきた。トモは友達という意味なんだと言うと、ねえマイトモ、あそこはポッシュ(気取った上流階級の人)の溜り場だから最低さ、トモはウチらとスピリッツをやりなよ、とほんの少量を酒瓶のキャップに注いで私に差し出した。スローリー、スローリーと大げさに言っていた。門限が近づいてもピスト(泥酔)しているので、三人がかりで私をトイレに担いでいき、冷たいシャワーをかけた。風呂上がりに見せかけてごまかし、レポート(門限までに寮長先生に入寮報告する)を突破するためだ。タオルから着替えまで手際良く用意して、レポートが終わると寝巻きにしてベッドに入れるという実に見事なチームワークで、やっと仲間ができたと思って嬉しかった。
それからアリエンヌは再々、ワンクイッド(1ポンド)を借りにくるようになり、私物を平然と使う、ラーメンもお菓子もどんどん減る、チャイニーズ(中華の出前)はいつも私が払うはめになった。まさか裏バーの隠蔽を好にたかられていると寮長先生に言うわけにもいかない。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生