Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2019.3.23
第7回---日本人と英語
オランダ人のバートはポーカーの名人で、なんだかちょっと危険な香りがするのが彼の魅力だった。ロワー6(6年生は低と高の2年度ある)のスタディに出入りして大勢で盛り上がっていた。トモコという名前をちゃんと呼んでくれたので嬉しいと言ったら、彼はウィンクして、一緒にポーカーやろうぜトモコと誘われた。お小遣いのほとんどをスッたころで、ドイツ人のフロイが見かねて、君はいいカードが来ると右に頭をこうやって傾けるからイージープレイ(餌食)なんだと教えてくれた。ああそうやって悪い人が私をカモってたのねと冗談のつもりで言うと、バートは立ち上がって手札を私に投げつけて出ていった。その夜はちっとも眠れなかった。
寮食は朝昼晩、全員が食堂で30人もかけられるような長い机に詰めて座るのだが、私はとにかく食べなきゃ負けるという勢いでかき込んでいた。しかし、あれからパサついたチップスが喉につかえて苦しい。ウップス、と言って私の横を避け、ひとつ席を空けて座ったのはバートだった。彼とフロイが話している言葉は英語ではなかった。空いたままの席がなぜこんなに恥ずかしくて悲しいのか、涙と鼻水がチップスの上にボタボタ落ちた。一人だけ言葉がわからない自分が嫌だった。次の日もバートはスタディに来たが、私にひどく怒っていた。私は彼の言葉がよくわからず、ただひたすら謝るしかなく、何度もソーリーと言っていると、彼はポケットからレコーダーを取り出し、ソーリーを再生してみせた。彼は笑いながらスタディを去っていき、あれを録音してどうするんだろうと思っていると、外で大勢の男子生徒の笑い声がした。寮長先生に訴えようにも、校則で禁止されている賭け事が原因でトラブルになったとは言えなかった。
しばらくしてバートを見かけなくなったのでフロイに聞くと、ドラッグで退学になったよ、よかったね、と言った。バートはオランダ語を話すのかと聞くと、オランダ語もドイツ語も英語もスウェーデン語も喋るよ、ただあの時は何語でもなかったのさ、デタラメ言葉で君がどのくらいイージープレイか賭けてたのさ、と教えてくれた。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生