Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2021.3.23
第19回---日本人と英語
イギリスの中等教育制度では6年生はロワーとアッパーの2学年あり、ジェイコブはアッパー6の上級生だった。プリフェクト(模範生)で2メートルちかく身長があり、いつも食堂前の列を監督していた。
体育は6年生は合同で、好きなスポーツが選べるので硬式テニスのコートに行ったところ、私はジェイコブとペアを組むことになった。背が高くてスポーツのできるジェイコブに、テニスのできなさそうな私という組み合わせの設定だったのか、私が上にボールトスしてサーブを打つと驚かれた。私がエースを取るとジェイコブはイエス!マイガールといってハイタッチしてくれた。
昔、団地で壁打ち練習のボール音がやかましいと住人から苦情をいわれ、それでも懲りずにやってよく叱られたが、今日この瞬間のためにあったんだなと思えるほど、楽しかった。それからは体育の時間が他のことは何も手につかないほど待ち遠しかった。
ある日、ひどい風邪をひいて学校内の療養所に入院してしまった。今日は行けなかったと悲しく思っていると、ドクターのアニーがジェイクが来たわよ、と私に言ってウィンクした。彼は体育着のままベッド脇の椅子に腰掛け、今日のテニスは最悪だった、ボロ負けの上に彼の親友のトッドがいかに無礼な態度で自分を侮辱し嘲笑ったか、苦々しく事細かに話してくれた。
私はくすくす布団の中で笑って話を聞いた。夕暮れになって、赤い光と熱と彼の声で世界がぐるぐる回った。翌朝、目覚めると彼が座っていた椅子の上にお見舞いのグミがあった。熱はすっかり下がり、夕食は食堂で食べていいと許可が出た。長い列の最後尾に並び、少しずつ前に進むにつれどうしていいか分からないほどドキドキした。1年生の男の子達と話すジェイコブの声が廊下伝いに聞こえた。ちびっ子達がアスリート選手にサインをもらっているような光景だった。
プリフェクトだから彼はみんなに優しいのだ、別に私が特別ではないんだからとようやく顔を上げたやいなや目が合って、すると彼はウィンクした。下級生達がイエース!マイガールと口々に言ってハイタッチをしてテニスの格好をしてみせた。私は胸がいっぱいで何も食べられず、こっそり夜中にベッドでグミを頬張った。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生