Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2023.5.23
第33回---日本人と英語
アボツホルムでは週2回、6時に起きて早めの朝食を済ませ、全校生徒が7時半にチャペルに集合する。ピアノ科の学生の演奏に合わせて讃美歌を歌い、聖書のお話を聞く。
初め、うちは寺だから私は仏教徒だけどなと思いながら、みなに倣ってアーメンと十字を切るのが、どちらの宗教にもなんだか失礼なような気がしていた。
だがイギリスで独りぼっちの私は、どうかこの心の痛みから救って欲しいと、神父のノートン先生のお話を熱心に聞いた。ノートン先生はアイルランド人で、方言で話しておられる内容が余計に私には難解だったが、今でもそのお声が耳に残っている。
ある時、ソロモンの箴言「知恵ある者とともに歩む者は知恵を得る、愚かな者の友は破滅する」について話しておられた。私は2度目の校則違反で2ヶ月のディテンション(罰則)になっていた。友達がいないばかりか味方してくれる人もいない。独りぼっちでいじめにあう。そのうち私は不人気で惨めな醜い人間だからいじめられるのだ、変わり者の嫌われ者だと信じるようになった。アリエンヌに「トモ、ファグ(煙草)に行くから一緒に来てよ」と誘われてついて行った校庭裏には、すでに5、6人が小声でおしゃべりしながら煙を燻らせていた。驚いたことに全員が私を見てちょっと微笑み、「ハィヤ、トモ」と声をかけてくれた。
束の間、友達ができた気がしてやっと英会話が役に立つかと喜んでいたら、ノートン先生に見つかり全員ディテンションになった。私は煙草は吸いませんと言っても、処分は同じだった。
彼らは君のカンパニー(連れ)なのかと聞かれて、「友達になりたいです。私の名前はトモですから」と説明したが、先生はかぶりを振った。僧侶だった曽祖父が初曾孫につけた名は、縁に恵(祖母は恵子)まれる朋の子だった。だがいつでもお手軽に友達ができるわけではない。誰でもいいわけでもない。度々の転校や留学は新しい友達ができるチャンスだといえばそうかもしれないが、何もないところから人間関係を築くのに疲弊して、心を痛め、苦しみ、待ちきれなくなる。賢者ソロモンも同じく友が欲しいと苦しんだろうか、耐え難いほど孤独だったろうか、聖書を擁く震える手にポタポタと涙が落ちた。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生