Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2024.5.23
第39回---日本人と英語
スカートを提出しないと留年ですよ、と家庭科の先生から言われた。縫えないなら手伝ってあげるから、放課後来なさいと言われたが、面倒で行かなかった。
次の授業でも先生は、今度こそ来なさいよと言ったが、怖くなって行かなかった。
家庭科の課題のスカートは未完成のまま放置された。
しまいに見るのも嫌でどこかにやって、スカートは提出できなくなった。
大校舎から離れた家庭科実習室で、今日こそはどうにか形にして単位を出そう、さもなければ留年だからと先生は待っておられたのだが、私は行かなかった。
勉強は好きだが、宿題はやらない。宿題がたまたま好きな課題だったらまれにはやるが、期限に間に合ったためしがない。かなり前の宿題を完成させて意気揚々と学校に持って行ったが、褒めてもらえず、やる気がなくなった。
宿題忘れの罰則やら減点やらでますます気が重くなり、もう先生の顔を見るのも辛いから休む。
サボるのはダメだと思うと、朝は体が痛くて一歩も動けない。それでも行こうとすると尿に血が出る、痛くてトイレから出れないから家族も困る。
小学校では先生が優しくないから嫌だ、中学校では不良ばかりで嫌だ、と登校前に泣くので両親もほとほと疲れ切ってしまった。
深夜の静かな時間に、数学と物理を辺りが明るくなるまで没頭して勉強した。
理解するのに時間がかかるので、晩御飯だと声をかけられても中断するし、お風呂に入りなさいと話しかけられるのも思考の妨げになった。
食卓での団欒も上の空で、どうやったらあの面積が計算できるのか、どうやったらあの規則性を数式で表現できるのか延々と考えていたので、家庭科のスカートの件は構っていられなかった。
そのうちに日本語と英語と数学の奇妙な共通点に気がつき、そこから興味は物理の世界に広がっていき、もっぱら宇宙の法則が一番の関心事だった。
とうにスカートは忘却の彼方に葬られていたのだが、イギリスに留学が決まって高校の単位変換を申請した父が、「スカートはどうしたんじゃ」と言って思い出した。
家庭科の先生が単位を出さないので、このままでは高校中退になるという、ついにサボりが大事になった。家探しして引っ張り出してきたスカートは埃だらけだったが、先生は赤ペンで40と書き込んでくれた。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生