Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2023.5.23
第32回---日本人と英語
コウは2年上級生でイギリスは3年目、来年卒業するアートの学生だった。入寮したばかりで友達のいない私には、イギリス人やドイツ人の学生らとワイワイやっているコウが羨ましかった。
コウの父親は会社を3つ経営しているお金持ちで、坊々らしく学校が休みになるといい車に乗って大都市に仲間と繰り出し、セレブな友人が大勢いた。私が来るまでは、学校で唯一の日本人だった。
私には気さくに日本語で話しかけてくれて、日本にいる美人の恋人の写真を見せてくれたり、ホームシックの私を、ラグビー友達の日本人のお宅のお食事会に連れて行ってくれたりした。
コウの話す英語は流暢で気が利いていて、タキシードからジーンズまで格好良く着こなす人だったが、唯一、発音がカタカナ風ですぐに日本人だとわかるのが玉に瑕だなと思ったが、本人も誰も気にしていない。
スタディをシェアしているマットは物理の学生で、マットの恋人のキャシーはストレートA(9科目全部Aをとった優秀な学生)の秀才でやはり物理の学生だった。
一方、コウは特に物理や数学を学ぶわけでもなく、香港系留学生のようにビジネスを学ぶわけでもなく、デザインや絵を描いていた。
それもあまり熱心ではなく、四六時中、リラックスした雰囲気でおしゃべりばかりしている。インテリ学生らと歓談していたかと思うと、音楽の学生たちとピアノを弾いたり歌ったり、ラグビーではウィングで足が速く、バーナイトでは蝶ネクタイでシェイカーを振って飲み物を手際よく作っていた。多才な人だが勉強はできない、将来を真面目に考える必要がない、親の会社を継ぐんだからお気楽なんだなと浅慮にも私はやっかんでいた。
コウは父親から、英語が話せるようになってこい、と言われてポイとイギリスの全寮制に入れられて3年目で、その使命を果たすべく毎日おしゃべり、ようやくどの階級の人とでも如才なく親しげに、朗らかな会話ができるようになったので来年は帰国して日本の大学に行くのだと言っていた。
イギリスに3年もいて会話だけとはもったいない、マットがお友達なのに物理は勉強しないのかと尋ねたら、そっちは日本語で勉強した方が早いじゃん、ここでしか勉強できないのは英語で臨機応変に実践でコミュニケーションする技術だからね、と彼は大真面目だった。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生