Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2021.9.23
第22回---日本人と英語
アボツホルムは全寮制の寄宿学校で、イギリス内陸北部のロースターという小さな町からほどなく離れた丘の上にある。百余年の歴史がある学校の建物はホグワーツさながらの外観である。煉瓦造りに木枠の窓、ペンキ塗りの鉄扉やセメントのコートヤードも、私が入寮していた頃のままのようだ。
1クラスは7人程度で、留学生は数名だけなので英語のクラスは4人だった。9歳ごろから18歳まで寮生活をするので先生方はどの生徒も熟知している。卒業するまで何年も先生方とともに家族のように暮らし、自分の適性を見出してもらい、「好きで上手にできること」をプロフェッションにするための勉強と研究に取り組む。美術、音楽、農業、商業から化学も物理も、専門的で高度な内容で、なんだか大学生になった気分だった。
美術科の学生のエスタはいつも絵を描いていて、他にエッセイの授業を受講しているだけだと言うので、添削された作文を見せてもらった。作文には定型の書き方、論理を明示するための用語があり、意見と事実を厳密に分けて、レポート用紙1枚に4段落でエッセイ(小論文)を書く。それを先生に添削してもらって推敲し直すのだが、そんな単純なことを1年間も毎週やるのかと聞いたら、これで2年目だと言っていた。
ある時、彼女が朝のチャペルで発言することがあり、評論家のように理路整然と自分の雑観を述べていたことがあったが、あっという間に作文を頭の中で書いて読み上げているような完成度だった。エスタだけでなく、エッセイ指導のおかげでどの生徒も発表は上手だった。6月になるといよいよAレベルの試験だと、エスタは美術室でもスタディでもずっと絵を描いていて、確かに美しい絵だと思ったが、絵の技術を理解できない私は、彼女に美術のラティガン先生を凌ぐほどの実力があるとは知らなかった。
エスタは先生も取れなかった難関のAを取り、希望の大学に進学が決まったので、来年はギャップイヤーを満喫するのだとブルネイに帰国した。大学に落ちて仕方なく浪人する日本人と、合格してまるまる1年、学校から離れて過ごすイギリス人とでは、全く異なる人生観を持っている。
今でもアボツホルムの学生たちはその校風を受け継いでいるだろう。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生