Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2021.5.23
第20回---日本人と英語
物理のクラスは私以外は男子生徒で、上級生のクラスもナインエィズ(Aを9個とった秀才)と呼ばれていたキャシー以外は男子だった。
みな分厚い、びっしり書き込まれたルースリーフのバイダーを抱えて関数電卓を持っていた。教科書は5センチほどの厚みがあり2年間かけて学ぶのだが、私の教科書は綺麗な中古品だった。なぜきちんと新品を支給しないのかクレームを言いたいところだったが、使ってしまったので今更遅いとあきらめた。
宿題が出ると生徒はただちにメモを取り、次の授業までに必ず準備してくる。間違った番号の問題をやってしまったとか、全部できなかったとか、提出してもバツしかついていないのは私だけだった。誰も宿題を忘れず見落としもないのが不思議だったが、おそらく男子学生たちは寮やスタディで協業していたのだろう。
キャシーの恋人のマットも物理のクラスにいて、いつも二人で勉強していた。教室の入口で「今日は君は廊下で僕を見ない」とジェイコブに声をかけられた。いつも見ているとバレたのかと思って顔が熱くなった。
試験が近いので勉強が忙しく、夕食のデューティ(優等生の仕事)は免除してもらった。夕食もミスする(食べられない)し、君をミスする(会えなくて寂しい)んだと言うので、ハングリーになりますねと返事をすると、とてもとてもハングリー(ものすごく渇望する状態)になると言って首を横に振りながら笑った。じゃあ、お菓子を持っていきますので物理を教えてくださいと言うと彼はウィンクした。ジェイコブはトッドとスタディをシェアしており、綺麗に整頓されたノートのバインダーがたくさん本棚に並んでいた。二人でせっせと教科書を写して整理していた。この問題が分からないと私の教科書を開いて見せると、彼らは悲鳴をあげてオーマイガ、オーーーマイガと何度も言って頭を抱えた。教科書は上級生から下級生に受け継がれる物で、決して書き込みしたり汚してはいけない、これが先生に知れたらバンダリズム(器物損壊)でディテンションでは済まないと深刻な顔をした。あの分厚いノートは教科書の写しであり、勉強の作業はテキストの複写から始まる。マーカーを引いた程度の私の読み込みとは雲泥の差だった。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生