Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2022.11.23
第29回---日本人と英語
母はお茶の水の理学部だったが、父と結婚するために文転した。一人息子だったので家業の幼稚園を継がねばならなかった。母は上京して学生寮で昼夜兼行ひたすら勉強していたらしいが、3年目の暮れにストレスと過労で倒れて呉にもどり、半年近く臥せっていた。
父は病床の彼女を繁く見舞って、文学部に編入して小学校の教師になったらいいじゃないか、野菜や苺を育てられるような庭のある、プレハブだが一戸建ての家を買うから、そこで家庭を築こうと提案した。
結婚して京都に住み始めた頃、父はまだ大学院生だった。
壁面いっぱいに美しい装丁の洋書が並んでいて、デューイの研究書は十数冊がセットで、それぞれ青から赤へと光のスペクトラムになった背表紙がひときわ綺麗で素敵だった。大学というところは珈琲と本のある、知的で夢がある場所なんだろうと憧れた。アッパー6の学年になると、いよいよ自分の大学選びが始まった。
週末はバスで大学めぐりに行き、学生や教授にキャンパスを案内してもらった。その後、教授と卒業プロジェクトや学習の進捗について面談し、毎学期の成績やAレベルのグレードを検討して、ほぼ口約束のような形で入学が決まる。学業レポートが良好な学生は、AレベルがCでも入学許可するとか、反対にプロジェクトが不振な学生はBをとれば受け入れるとか、大学入学の合否の判定は教授に一任されている。
父母の美談では、大学入試というものは共通一次で足切りするスクリーニングがあって、それからタフな学部入試を勝ち抜き、合格発表は番号で大学の掲示板に張り出されるという話だった。それなら不正はしにくいので、真に実力のある学生が入学を許可されるだろう。学校の先生が書いたレポートや教授個人の裁量判断で合否が決まるなら、いとも容易く不正入学が横行するのではないか。イギリスの大学ってずいぶんいい加減だねと父に言うと、本当にそう思うか?
王族や政府が国家の最高教育研究機関としてやっとる由緒正しい伝統と歴史のあるイギリスの大学じゃ。それだけ信用できる教師と教授がおるから、相応しい受験者を正しく評価できる。点数だけの一発勝負で選ぶ試験の方がよほど楽だろうに、そうせんのはなんでかと思わんか。(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生