Pochitto(ぽちっト)神戸 | 日本人と英語
更新:2022.1.23
第24回---日本人と英語
春学期の後半、アッパー6は卒業の日が近づいていた。
一学年下のロワー6の私は、ジェイコブのおかげで数名の先輩方と話せるようになり、進学やテスト対策のティップスをもらえるようになった。
クランといわれる主に出身地や階級で組む閉鎖的な友達グループで行動するイギリスの寮生活は、所属しているクランがそのまま成績に影響する。模範生だったジェイコブの周りには品行方正な友人が大勢いた。私は彼らの話す英語の独特のアクセントと速さに慣れて、直接話すというより立ち聞きして、先生の性格や課題の参考図書などの情報を得た。
吸ってもいない喫煙の廉で停学処分を受けた私は、彼らのクランには相応しからぬ人物だった。
しかし写本させてもらいたい、先日のグミのお礼を持ってきた、日本からのヌードルのお裾分け、プロジェクトを見てほしい、宿題の質問があるなどなど、口実を作ってはスタディを訪ねてくる私をジェイコブは歓迎してくれた。
少しばかり物理の議論もできるようになり、オックスフォードやケンブリッジの学生たちが話すRPアクセントになっていた私は、違和感は薄れていただろう。それでも、やはり食堂では彼らと同席することはできず、いつか誰かが、ここに座らないかとアッパー6のテーブルに呼んでくれるのをずっと待っていたが、ついに最後の学食の日にも声をかけてはもらえなかった。
私はうつむいて乾いたローストビーフとチップスを口に押し込んでいた。その向かいにガチャンとトレーを置いて、長い脚でベンチをまたいで座った彼は、悲しそうだね、マイガールと言った。最後の晩餐(ラスト・サパー)だからと言うと、ようやくジェイコブ(キリストの12使徒に由来する名前)はここにいる、勇気がなかった僕を許してほしいと言った。もうすぐ僕はアボツホルムを去るが、思い出の時間を古い友人と過ごすのはやめた、そのかわり未来に会いたいと思う人と話したい。君は僕の知る唯一の日本人だが、優しくて誠実な民族だと思う。清い心を持つ君を日本人の代表として尊敬している。明後日、ロンドン観光しないかい僕と、仔猫ちゃん。そう言ってウィンクした彼の横に座っていた下級生が、ジーザス・クライスト!と冗談を言った。
(つづく)
ECC鈴蘭台駅前教室 前島朋子先生