Pochitto(ぽちっト)神戸 | 街角浪漫
更新:2024.5.23
第44回---街角浪漫
前回の木次線について問い合わせがありましたので、今回は山陰線の宍道駅から廃止が検討されている岡山の新見~広島間の芸備線と接続している備後落合駅迄続く81.9キロの奥出雲を縦断する絶景路線を旅してみましょう。
備後落合駅は秘境駅としても有名で、かつては急行ちどりの分割併合等ターミナル駅として多くの職員や旅人がいました。小倉出身の松本清張さんも父親の行商の供の際、駅前の旅籠で泊まった経験を基に「砂の器」を書き上げています。
今や民家も無く、当時の賑わいの証としてそばを通る国道沿いに一軒郵便局が残っているだけの無人駅なのですが、駅長帽を被った翁が在中されておられ、運が良ければお話を聞かせてくれます。そこからキハ120の気動車は西城川の清流沿いにグングン高度を上げながら進みます。
この路線の駅には神話に因んだ神々が紐づけされており、島根との県境のJR西日本一の標高726m、スキー場が有る三野原駅は、かって「つちのこ」と二分した「ヒバゴン」で有名なイザナミの眠る比婆山が見渡せる山の上、その名も高天原とつけられています。
そしてここから国道の真っ赤な橋のおろちループを観ながらトンネルに入り、数分車中で揺られながら抜け出すと、あの赤い橋がはるか頭上に見えるじゃありませんか。すると急にキハ120は小屋の中で止まり、運転手が出てきて反対側の運転席に向います。そして先の延命水が年中湧き出る出雲坂根駅に到着します。これが西日本唯一の三段式スイッチバック、この駅の標高が564m三野原駅との高低差は160mもあり神鉄で慣れているのにも関わらずまるで木次マジック、度肝を抜かれます。
ここから古代神話の聖地奥出雲を通っていきますが、山中には素戔嗚尊が降臨したと云われる船通山がそびえ、砂鉄の含有量が日本有数の斐伊川のほぼ源流域。この川から取れる砂鉄が、弥生時代を終わらせ古墳時代が到来する位の産業革命を起こします。採掘された鉄は、当時は元旦に地震に見舞われた奥能登にも運ばれ鉄製品に加工されます。
奥能登の辺りはその頃、越の国と呼ばれており、ヤマタノオロチはその越の国からやって来ます。越の国の人達と戦った英雄がおそらく素戔嗚尊の神話になったのかも知れません。その後も斐伊川からの砂鉄はとれ続け、江戸時代になると日本一の製鉄地に、その時の莫大な財産がこの路線を開通させる起爆剤になります。至る所にたたら製鉄の遺跡が残っています。鬼の舌震と呼ばれる石灰岩の景勝地の近所にある、たたら製鉄家の絲原家は、TBSのドラマ「vivant 」のロケにも使われる等、観光名所にもなっています。
ちょっくら途中下車が長くなりました。次回はグルメ通にもとっておきの情報を。続く
作 山善寿司 大将